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BATTERY

横田、河原、上津原-佐藤

戦評COMMENT

ベンチ裏に広がった疲労混じりの笑顔が、試合の濃密さを語っていた。
延長12回、3時間25分――。粘り抜いた先に、勝利が待っていた。
立ち上がりは静かだった。序盤は両チーム無得点。1回表に3番江藤圭樹がチーム初安打となる右前安打、さらに3回表に9番坂本一将の中前安打を皮切りに得点圏に走者を進めた攻撃と、序盤3イニングスを無安打に抑えた先発・横田哲の投球内容を見れば、やや一塁側ベンチに風は流れていただろうか。
その微風を得点につなげたのが、4回表だった。まずはイニングの先頭となった4番川端裕也が右前安打で出塁。5番佐藤貴穂の3球目に川端が盗塁を決めて無死二塁とする。さらに佐藤の死球で一、二塁、6番大西主晃の犠打で二、三塁とし、チャンスは拡大した。ここで7番富田裕貴がボールに食らいつく。1ボール2ストライクから5球続けてファールで粘る。その集中力と粘り強さが結果として表れたのが9球目だった。三塁前への内野安打。三塁走者の川端がホームを陥れて1点を先制した。
チャンスは続く。一死一、三塁で、後続の打者は8番宮之原裕樹と9番坂本。策を打つ、つまりはシンプルなヒッティング以外にもスクイズなどの「仕掛け」を試みるには、ともに打って付けの打者が続いた。一気に主導権を握るためにも追加点が欲しい場面。事実、初芝清監督は策を講ずるべきか否か、「一瞬、迷った」という。だが、ベンチは仕掛けなかった。選手の打撃を信じた。結果は、宮之原がセンターフライに、坂本がレフトフライに倒れて追加点を奪えなかった。すべては結果論になる。無論、選手の打撃に期待した決断は間違っていなかっただろうし、仮に適時打が生まれていればベンチの士気はさらに高まったかもしれない。だが、追加点を逃した攻撃が、その後の試合展開に少なからず影響したことは事実だ。試合後の初芝監督は、攻めきれなかった4回表の攻撃をこう振り返った。
「いろいろな仕掛けは一瞬、考えました。今日の試合で、(4回表の攻撃は)悔いが残るところでした。もう1点取っていれば……。1点で終わったことで、(先発の)横田のピッチングを窮屈にさせてしまった」
直後の4回裏。横田は二死から内野の失策と連打で逆転を許した。得点した直後の失点だっただけに、ダメージは大きかった。
それでも、この試合にかけるチームの思い、勝利への執念は強かった。
気落ちする左腕エースを、野手陣が守備で盛り立てたのは5回裏だ。一死一塁からのセカンド前への難しい打球をさばき、得点圏に走者を進めなかった二塁手・江藤の好守。さらに二死一、二塁から三遊間へのヒット性の打球をダイビングキャッチ。体勢を整えて打者走者をアウトにした三塁手・宮之原の美技は、相手に大きく傾きかけていた流れを食い止めるビッグプレーだった。
6回裏には四死球と長打で満塁とされ、犠飛で追加点を奪われた。修正できずに苦しみ続けるマウントの横田。それでも、左腕は後続を討ち取り何とか最小失点で切り抜けた。悪いなりにも粘り強くマウンドを守り抜いた横田のピッチングは、その後の攻撃に期待を残すものだった。
チームの粘りが実ったのは、8回表だ。一死から途中出場の2番澤良木喬之が失策で出塁。二死となったが、4番川端が四球を選んで一、二塁となった。打席には、5番佐藤。2ボール1ストライクからの4球目、佐藤のバットが快音を残す。遊撃手の横を鋭く抜けた打球は、左中間に転がる適時二塁打となった。一塁走者の川端が、中継プレーが乱れる間にホームを陥れ、ついに試合を振り出しに戻した。
終盤での同点劇に、チームは勢いづいた。投げては7回途中から登板した3番手の上津原詳が、三菱重工神戸打線を手玉に取る。点を与えない。9回以降、再び打線が沈黙を続けるが、一塁側ベンチの誰もが勝利を信じ続けた。
迎えた延長12回表。大会規定により一死満塁から始まるタイ・ブレーク方式が導入されたそのイニングに、チームの思いは実を結んだ。満塁の場面、チームの勝利を託されたのは主将の江藤だった。1ボール2ストライクと追い込まれた3番打者は、腹をくくった。球種やコースは関係ない。自らのベストスイングをすることだけに集中した。4球目、甘く入ったフォークボールを江藤のバットがとらえる。打球が低く、そして痛烈に右中間へ飛んだ。二塁ベース上で両手を高々と上げた江藤の一打が、貴重な2点を生んだ。
「過去にないぐらいに緊張しました。とにかく気持ちで打ちました」
なおも一死二、三塁から、4番川端にも中越え三塁打が飛び出し、2点を追加。延長12回表を迎えて160球以上を投じていた三菱重工神戸の先発・守安玲緒投手の失投を見逃さない中軸の連打で、点差は一気に4点に広がった。
その裏、粘る相手打線に1点差に詰め寄られるが、最後は上津原が締めてゲームセット。本大会3度目の出場で、チームはついに日本選手権初勝利を手にした。
試合後、記念のウイニングボールを上津原から手渡された初芝監督は、ホッとした表情でこう語った。
「これからの試合も、このメンバーで一戦一戦大事に戦っていきたい。とにかく、全員で戦うこと。それに尽きます」
主将の江藤は言う。
「同点に追いついた場面。そこにチームの成長を感じました」
選手全員が一丸となり、新たな道を切り開いた初戦。苦しみながらも掴み取った勝利は大きい。“初勝利”で手にした勢いは、さらにチームの成長度合いを深めていくはずだ。
(文:佐々木亨 写真:政川慎治)