HOME 試合情報 試合結果 準々決勝 試合日程・結果 2014.11.09 [Sun] 第40回社会人野球日本選手権大会準々決勝 vs 大阪ガス 京セラドーム大阪 前の試合へ 次の試合へ TEAM T 1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E セガサミー セ 0 1 0 0 0 1 0 0 1 3 0 0 大阪ガス 大 0 0 0 0 1 0 0 1 0 2 0 0 BATTERY 前原、松永、上津原-佐藤 HOMERUN 澤良木(9回ソロ) 選手成績 戦評 速報 戦評COMMENT ドラマはみたび、終盤に待っていた。 8回表に同点として延長12回タイ・ブレークを制した初戦。8回裏に一挙3点を奪って逆転勝利を収めた3回戦。そして――大阪ガスとの準々決勝、試合のハイライトは9回表に訪れた。 二死走者なし。8回裏に1対1の同点とされた直後の攻撃は、やや淡白に終わりかけていた。試合展開を考えれば、決して楽ではなかった。むしろ、追い上げムードの中で試合を振り出しに戻した相手の勢いが、その時点では勝っていたかもしれない。だが、その空気が一変した。 一瞬の出来事だった。左打席に立つ6番澤良木喬之のバットが、初球144キロのストレートを完璧にとらえる。 「コースはアウトローいっぱい。思いっきり踏み込みました」 打球が伸びる、さらに伸びる。センター122メートルの地点にあるフェンスに向かって、強烈な一打がグングンと加速していった。打球は、やや右中間寄りの高さ4・2メートルのフェンスを悠々と越えた。勝ち越しの特大ソロアーチ。打球の行方を見届けた左の強打者は、二塁ベース手前で静かに右腕を突き上げた。 今大会初スタメンの澤良木は、愛媛・済美高校時代から「伊予のゴジラ」と異名をとったパワーヒッターだ。日本文理大時代も、その飛距離は周囲の度肝を抜いた。だが、社会人野球での澤良木は、これまでその才能を大舞台で発揮することができずに苦しみ続けた。それでも、いつか必ずチャンスが訪れる。そう信じて、来る日も来る日もバットを振り続けてきた。 努力は報われた。しかも、日本選手権という大舞台で。 大きな仕事をやってのけた澤良木は、9回表の一発をこう振り返った。 「初球から振っていこうと決めていました。打った感触は完璧。それでも、心の中では『伸びろ~!』と思いながらベースを回っていました。とにかくチームの勝利に貢献しよう。ただその一心でした」 勝利のために――。それはチームの総意。選手、スタッフ、チームの誰もが今、その思いを強く抱いて戦い続ける。 準々決勝の先発。その大役を務めた右アンダースロー、入社1年目の前原侑宜も勝利への執念を持ってマウンドを守り続けた一人だ。日本文理大時代に大学選手権という全国の舞台を経験したとは言え、前原にとってはこの試合が社会人になってから初の大舞台だった。先発は試合当日の朝に言い渡された。 「(準々決勝の)先発はあるかもしれないと思っていましたが、いざ言われると緊張しました。でも、いい緊張というか。初回のマウンドに上がった時も多少は緊張感がありましたが、先頭打者をアウトに討ち取って体がほぐれました」(前原) ほぐれた右腕から放たれたストレートや変化球は、打者の手元でひと伸びし、鋭く曲がった。「キャッチャーの佐藤(貴穂)さんと相談して、緩い変化球を効果的に使った」立ち上がりは三者凡退。2番打者のセカンド前に転がった打球を華麗にさばいた二塁手・江藤圭樹の好守もありながら、上々の滑り出しを見せた。2回表、攻撃陣が4番川端裕也の中前安打を皮切りに、6番澤良木の適時二塁打で1点を先制した直後のマウンドでも、前原は三者凡退のイニングを築いた。 3回裏は、先頭打者にピッチャー強襲安打を浴び、さらに犠打を内野安打とされ、無死一、二塁のピンチを背負った。それでも新人右腕は冷静に、自らのピッチングだけを心がけた。一、二塁から相手の犠打が併殺となるビッグプレーもありながら、初めて訪れたピンチを無失点で切り抜けた。二死から内野安打と野手の失策で得点圏に走者を進められた4回裏にファースト強襲安打で同点とされたが、失点はわずかにその1点のみ(自責点0)。勝ち越しを許さなかった。結局、6イニングスを投げ切った右腕は、6安打を浴びながらも無四球1失点の安定感。的を絞らせない緩急をつけたピッチングが冴え、69球の省エネ投法で相手打線を手玉に取った。 前原の好投を無駄にはできない。その思いを、攻撃陣が結果として表したのが6回表だ。3番江藤の中前安打を起点に、4番川端の犠飛で再びリードを奪った。マウンドでも、勝利を託された投手陣が奮起した。7回裏から登板した2番手・松永大介、初戦でも好救援を見せた3番手・上津原詳が我慢のピッチングを続ける。そして、それらすべての思いが最後の攻撃で報われた。9回表に飛び出した澤良木の豪快弾。1点を争う接戦で、その一発が「勝利」の二文字をグッと手繰り寄せた。 前日の試合で一つの壁を打ち破ったチームには逞しさが宿り、強さが滲む。社会人野球では「ベスト8からの戦いが真の勝負」と語る人は少なくない。準々決勝、準決勝と、勝ち星を積み重ねることでチームの成熟度は増していく。 準々決勝を制し、次なるステージにまた一つ駆け上がったチームは今、新たな領域に足を踏み入れた。 (文:佐々木亨 写真:政川慎治) 前へ 1 次へ 前の試合へ 試合結果一覧 次の試合へ
戦評COMMENT
ドラマはみたび、終盤に待っていた。
8回表に同点として延長12回タイ・ブレークを制した初戦。8回裏に一挙3点を奪って逆転勝利を収めた3回戦。そして――大阪ガスとの準々決勝、試合のハイライトは9回表に訪れた。
二死走者なし。8回裏に1対1の同点とされた直後の攻撃は、やや淡白に終わりかけていた。試合展開を考えれば、決して楽ではなかった。むしろ、追い上げムードの中で試合を振り出しに戻した相手の勢いが、その時点では勝っていたかもしれない。だが、その空気が一変した。
一瞬の出来事だった。左打席に立つ6番澤良木喬之のバットが、初球144キロのストレートを完璧にとらえる。
「コースはアウトローいっぱい。思いっきり踏み込みました」
打球が伸びる、さらに伸びる。センター122メートルの地点にあるフェンスに向かって、強烈な一打がグングンと加速していった。打球は、やや右中間寄りの高さ4・2メートルのフェンスを悠々と越えた。勝ち越しの特大ソロアーチ。打球の行方を見届けた左の強打者は、二塁ベース手前で静かに右腕を突き上げた。
今大会初スタメンの澤良木は、愛媛・済美高校時代から「伊予のゴジラ」と異名をとったパワーヒッターだ。日本文理大時代も、その飛距離は周囲の度肝を抜いた。だが、社会人野球での澤良木は、これまでその才能を大舞台で発揮することができずに苦しみ続けた。それでも、いつか必ずチャンスが訪れる。そう信じて、来る日も来る日もバットを振り続けてきた。
努力は報われた。しかも、日本選手権という大舞台で。
大きな仕事をやってのけた澤良木は、9回表の一発をこう振り返った。
「初球から振っていこうと決めていました。打った感触は完璧。それでも、心の中では『伸びろ~!』と思いながらベースを回っていました。とにかくチームの勝利に貢献しよう。ただその一心でした」
勝利のために――。それはチームの総意。選手、スタッフ、チームの誰もが今、その思いを強く抱いて戦い続ける。
準々決勝の先発。その大役を務めた右アンダースロー、入社1年目の前原侑宜も勝利への執念を持ってマウンドを守り続けた一人だ。日本文理大時代に大学選手権という全国の舞台を経験したとは言え、前原にとってはこの試合が社会人になってから初の大舞台だった。先発は試合当日の朝に言い渡された。
「(準々決勝の)先発はあるかもしれないと思っていましたが、いざ言われると緊張しました。でも、いい緊張というか。初回のマウンドに上がった時も多少は緊張感がありましたが、先頭打者をアウトに討ち取って体がほぐれました」(前原)
ほぐれた右腕から放たれたストレートや変化球は、打者の手元でひと伸びし、鋭く曲がった。「キャッチャーの佐藤(貴穂)さんと相談して、緩い変化球を効果的に使った」立ち上がりは三者凡退。2番打者のセカンド前に転がった打球を華麗にさばいた二塁手・江藤圭樹の好守もありながら、上々の滑り出しを見せた。2回表、攻撃陣が4番川端裕也の中前安打を皮切りに、6番澤良木の適時二塁打で1点を先制した直後のマウンドでも、前原は三者凡退のイニングを築いた。
3回裏は、先頭打者にピッチャー強襲安打を浴び、さらに犠打を内野安打とされ、無死一、二塁のピンチを背負った。それでも新人右腕は冷静に、自らのピッチングだけを心がけた。一、二塁から相手の犠打が併殺となるビッグプレーもありながら、初めて訪れたピンチを無失点で切り抜けた。二死から内野安打と野手の失策で得点圏に走者を進められた4回裏にファースト強襲安打で同点とされたが、失点はわずかにその1点のみ(自責点0)。勝ち越しを許さなかった。結局、6イニングスを投げ切った右腕は、6安打を浴びながらも無四球1失点の安定感。的を絞らせない緩急をつけたピッチングが冴え、69球の省エネ投法で相手打線を手玉に取った。
前原の好投を無駄にはできない。その思いを、攻撃陣が結果として表したのが6回表だ。3番江藤の中前安打を起点に、4番川端の犠飛で再びリードを奪った。マウンドでも、勝利を託された投手陣が奮起した。7回裏から登板した2番手・松永大介、初戦でも好救援を見せた3番手・上津原詳が我慢のピッチングを続ける。そして、それらすべての思いが最後の攻撃で報われた。9回表に飛び出した澤良木の豪快弾。1点を争う接戦で、その一発が「勝利」の二文字をグッと手繰り寄せた。
前日の試合で一つの壁を打ち破ったチームには逞しさが宿り、強さが滲む。社会人野球では「ベスト8からの戦いが真の勝負」と語る人は少なくない。準々決勝、準決勝と、勝ち星を積み重ねることでチームの成熟度は増していく。
準々決勝を制し、次なるステージにまた一つ駆け上がったチームは今、新たな領域に足を踏み入れた。
(文:佐々木亨 写真:政川慎治)