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BATTERY

横田-佐藤

戦評COMMENT

始まりは122キロ、真骨頂であるチェンジアップでの空振り三振だった。
その先頭打者の三振で勢いづいた先発の横田哲は、1回裏を難なく三者凡退に抑えた。2回裏はさらにテンポが増す。サードゴロ、セカンドフライ、ファーストゴロ。緩いカーブも交えながら、わずか9球で日本生命打線を「0」に抑えた。2回の攻防を終えた時点で、試合開始から17分しか経っていない。攻撃陣も、日本生命の左腕・清水翔太投手を攻略できずに三者凡退を繰り返していたが、横田の状態の良さが際立った。3回裏は、二死から両チーム通じて初安打となる右中間への三塁打を浴びたが、後続の打者を見逃し三振に仕留めて点を与えなかった。捕手の佐藤貴穂が序盤の組み立てをこう語る。
「一巡目は安全策。チェンジアップを多めに、外角の変化球を中心に配球しました」
序盤を終えて約30分の試合時間だ。あっという間に、流れるように、準決勝は進んだ。
4回表、その静かな試合に変化が訪れる。二死から4番川端裕也が四球を選ぶ。すかさず盗塁を決めて走者二塁。「走れる4番」のチャンスメイクに相手バッテリーは動揺しただろうか。5番佐藤も四球で出塁し、一、二塁とチャンスは続いた。ここで、前日のヒーローとなった6番澤良木喬之が打席に立つ。1ボールからの2球目。120キロの変化球を澤良木のバットがとらえる。打球が、やや右中間寄りのセンター前に運ばれた。チーム初安打が、待望の先取点を生んだ。
にわかに動き出した試合は、そこから濃密な時間へと突入していく。
4回裏、マウンドの横田はわずか4球で2つのアウトを奪った。だが、フルカウントと追い込んだ4番打者に外角の変化球を右翼線に運ばれる。二塁打。続く5番打者にはショートへの内野安打を放たれ、一、三塁とピンチは広がった。迎えるは、右打席に立つ6番打者。初球だった。123キロの変化球をとらえた打球が、右翼手・政野寛明に向かって痛烈に伸びる。当たりは悪くない。だが、横田の気迫が少しだけ勝っただろうか。政野がその打球をしっかりとグラブに収め、悲鳴は歓喜に変わった。エース左腕の粘り勝ち。加えて言えば、二死二塁から浴びた三遊間を抜けるかと思われた打球を遊撃手・坂本一将が内野安打に食い止めたのは大きかった。主将の江藤圭樹は言う。
「今大会はピンチもありながら、野手間の事前の声掛けもあり、ピッチャーを含めた堅い守備で粘り強く戦えている」
堅守。今大会を象徴するイニングを築き、中盤に入っても主導権を譲らなかった。
5回裏も、その堅い守りがチームを救った。先頭打者が三遊間への強烈な打球を放つ。無死からの出塁は失点につながりやすく、投手にとっては精神的なダメージが大きい。このピンチとなりかけた場面で魅せたのが、三塁手の宮之原裕樹だった。強烈なワンバウンドの打球を半身になりながら好捕し、打者走者をアウトにした。横田を盛り立てるビッグプレー。結局、このイニングも点を与えなかった横田は、前半を被安打3の無失点で折り返した。
捕手の佐藤は考えていた。
「二巡目も、基本的には序盤と同じような組み立てでしたが、相手打線は徐々に変化球をとらえ始めていました。4回裏、ピンチの場面で打たれたライトフライも当たりとしては悪くなかった。だから、後半は真っ直ぐを多めに使いながら、変化球をちらす配球に切り替えました」
6回裏は先頭打者にショートへの内野安打を浴びた。犠打で一死二塁。ここで4番打者を打席に迎える。一打同点の場面、対するは右の強打者。横田は、膝元いっぱいをつくストレートを積極的に使った。2ボール1ストライクからの4球目。そこでもインコースを果敢に攻めた。132キロのストレートが打者のスイングを窮屈にさせる。つまった打球が、左翼手・川端のグラブに収まった。
「攻め」のピッチングを見せる横田の好投に、攻撃陣が再び応えたのは8回表だ。イニングの先頭となった9番坂本が初球を豪快に振り抜き左越え二塁打で出塁。1番政野は犠打。タイミングとしては二塁走者の進塁を阻まれる微妙な犠打となったが、ここで相手に綻びが出る。投手の三塁への悪送球。ボールが外野のファールゾーンに転がる間、坂本が一気にホームを陥れて貴重な追加点を奪った。振り返れば、NTT東日本との3回戦、8回裏にもまったく同じ場面があった。「神がかっています」。試合後、ベテラン右腕の上津原詳が残した言葉が腑に落ちる。8回表の得点シーンに、今大会の「流れ」を感じずにはいられなかった。
終盤での追加点、そこに間違いなくある「良い流れ」は、チームの士気をより高める。たとえピンチが訪れたとしても、その窮地を乗り越えられる大きな力を生み出すものだ。
残り2イニングが、そうだった。捕手の佐藤が横田のピッチングを振り返る。
「力みもあったと思いますが、8回、9回は球威、キレともにやや落ちていたと思います」
8回裏、先頭打者に対してカウント3ボールとボールが先行したピッチングが、佐藤の言葉を物語っていた。それでも、横田は粘る。ピンチを迎えて一層、ギアを一段階上げて打者を討ち取りにいった。フルカウントに持ち込み、最後は渾身のストレートだ。佐藤のキャッチャーミットにズバッと収まった132キロの速球に、打者のバットは反応できなかった。見逃し三振。続く1番打者(代打)からも、8球粘られたあとのストレートで見逃し三振を奪った。横田の魂のこもったボールが、日本生命打線に付け入る隙を与えなかった。
確かに、力みは感じられた。二死から2つの四球と中前安打で満塁とされたピッチングが横田の状態を示していた。だがやはり、最後は左腕の気持ちが勝った。一打同点、長打が出れば逆転される可能性があったこの試合最大のピンチを、みたびストレートでの見逃し三振で切り抜けた。
「(最後も)ストレートを突っ込みました」
試合後、笑いを含んでそう語った佐藤の顔は誇らしげだった。
9回裏、先頭打者の右翼線二塁打を皮切りに一死一、三塁とピンチを迎えたが、横田は最後の最後まで攻め続けた。この試合3度目のタイムをかけ、マウンドに向かった初芝清監督の言葉で、エースの心は再び奮い立った。
「今日は最後までお前で行く。代える気はないから」
フルカウントまで粘る9番打者を、外角のストレートで空振り三振。そして、またもやフルカウントまで持ち込まれた1番打者を、やはり最後はストレートでショートフライに討ち取った。ゲームセット――。
149球の熱投。被安打7の8奪三振で完封勝利を手にした横田は、試合後にこう語った。
「焦っても良い結果は出ない。しっかりと狙ったコースに投げていれば打たれないと思い、落ち着いて投げました」
指揮官は、チームを決勝に導く快投を演じたエース左腕をこう称えた。
「ヒヤヒヤする場面も、横田がよく踏ん張ってくれました」
日本生命は、昨秋の日本選手権初戦で苦汁をなめさせられた相手だった。今秋、チームはその悔しさを晴らした。しかも、舞台は準決勝。決勝進出を決めた力は本物だ。さらに本物を証明する大一番、単独チーム日本一を決める頂上決戦にチームは立つ。
狙うはもちろん、光り輝く「ダイヤモンド旗」だ。
(文:佐々木亨 写真:政川慎治)