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BATTERY

森脇、前原、横田-佐藤

HOMERUN

佐藤(4回2ラン)

戦評COMMENT

その瞬間、時間が止まった。
そう思うほどに誰もが息を呑み、打球の行方を見つめた。
一死満塁。快音を残した打球は、やや右中間寄りのセンターに向かって伸びた。三塁走者の代走・須田凌平が左足をベースにかけて上体を沈める。タッチアップの体勢だ。そして、球場全体の視線を集めた飛球が中堅手のグラブに収まると同時に、須田は一気に駆け出した。ホームに向かって踏み出される足は、勝利へのカウントダウン。最後の“ひと足”がホームベースをとらえ、球審の両手が左右に広がった瞬間、4時間に及ぶ激闘に終止符が打たれた。
延長12回裏、サヨナラの犠飛を放った代打・大久保泰成が打席を振り返る。
「バットを短く持って打席に入りました。打った球は低めのスライダー。それまでストレートに差し込まれていたので、ちょうどスライダーにタイミングが合いました」
初芝清監督は最後の一打をこう称賛する。
「大久保は、なかなかチャンスがない中で一打席に対する集中力があった。最後はその力に賭けましたし、期待通りに集中力を発揮してくれた」
今予選の大久保は、ベンチを温めることが多かった。この試合での打席は予選を通じて2打席目。わずかなチャンスでの大きな仕事だった。
その巡り会わせは、仲間がもたらしてくれたものだった。1点を勝ち越されて迎えた12回裏は、一死から4番川端裕也が二塁打。5番佐藤貴穂がレフト前ヒットで続いて一、三塁とした。そのチャンスで魅せたのが6番澤良木喬之。「初球から振っていこう」と決めていた澤良木の打球は一塁手の横で大きく跳ねてライト前に抜けた。驚異の粘りで同点。さらに7番富田裕貴の敬遠(故意四球)で満塁となり、その直後に大久保の一打が生まれた。
決して諦めなかった至極のゲーム。最後まで勝利への執念は絶えなかった。その姿は4回裏、5番佐藤の特大アーチをきっかけに加速した。1点差に迫る左翼スタンド上段に突き刺さる2ラン本塁打は、カウント1ボール2ストライクからの5球目に生まれた。佐藤の回想だ。
「打った球はフォークボール。バットの先でしたが、上手いこと打てました」
7回裏には、選手たちの勝利への執念がバットに乗り移った。まずは先頭の8番宮之原裕樹がバットを折りながらもレフト前ヒットで出塁した。犠打と死球で一死一、二塁。そのチャンスで、代打・松延卓哉は二塁ベース寄りのセカンドゴロ。「ダメか……」。だが、松延の執念が勝っただろうか。併殺を焦った二塁手が失策。その間に宮之原がホームを陥れて同点に追いついた。なおも一、二塁。そのチャンスで打席に立ったのは3番江藤圭樹だった。今予選は相手の厳しい攻めもあり、苦しみ続けた主将のバットに三塁側ベンチとスタンドが熱い視線を送る。カウント2ボール2ストライク。5球目はアウトコースに流れていくスライダーだった。
「意地の一打です」
そう振り返る江藤は、右手一本でスライダーをライト線に運んだ。勝ち越し――。
苦しかった思い、報われた思い。すべての感情を吐き出し、江藤は二塁ベース上で雄叫びを上げた。
守備では、2つのビッグプレーがチームを救った。同点とされてなおも一死三塁の8回裏は、途中出場の左翼手・高島秀伍がタッチアップを阻止するホームへの好返球を見せてピンチを救った。
「とにかく右腕を思い切り振りました」(高島)
延長12回表は、三塁手・宮之原の好守だ。二死二塁で、痛烈な打球が三塁線を追う。抜ければさらにピンチは拡大する。その打球を、宮之原が横っ飛びで好捕。一塁への送球がずれて打者走者はアウトにできず、その後、マウンドの横田哲が適時打を浴びて1点を失ったが、試合の流れ、そして勝敗を左右する大きなプレーだった。
「必死にグラブを出しました」(宮之原)
勝利を手にした直後、激闘を演じた選手たちの笑顔がグラウンド上で弾けた。同時に、嬉し涙が、そして安堵の涙が溢れた。大きな期待を背負い続ける中、予選を通じて思うような結果が出なかった横田、または主軸を担った江藤や川端の目から大粒の涙がこぼれた。
苦しかった。第4代表を獲得するまでの道のりは、苦しみの連続だった。江藤が予選を振り返る。
「みんなが苦しんだ予選でした。でも、最後に思いました。野球の神様っているんだな、と。今日の勝利は、どんなに苦しくても諦めずに戦い抜いた結果。そしてスタンドに詰め掛け、最後まで勝利を信じて応援してくださった方々のおかげで掴んだものだと思います。みなさんの応援には、感謝の言葉しかありません」
そして、初芝監督は実感を込めてこう言う。
「昨年も厳しい予選でしたが、今年の方がより厳しかった。東京都の予選は毎年のように厳しいのはわかっていますが、今年は最後の最後まできつかった。チームは春季キャンプから予選を迎えるまで、オープン戦でも勝てずに苦しみました。予選に入ってからはチームを立て直す時間もない。その中で、監督の立場としてはそれぞれが取り組んできたことを信じて、そこに賭けようと思った。最後は選手たちが本当によく頑張ってくれました。彼らに感謝です」
グラウンドに立った選手はもちろん、控え選手やベンチ外の選手も含め、チームが一つとなって代表権を掴んだ。勝利した直後、三塁側ベンチに駆け込んできたベンチ外の選手を、全員で迎えて喜びを分かち合う姿が印象的だった。その光景こそが、今予選のすべてを物語っていた。
(文・写真:佐々木亨)