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BATTERY

井上-須田

戦評COMMENT

ナイター照明から注がれる光線が、マウンドの井上和紀を照らす。9回表を迎えた左腕の疲労は、その度合いを深めていた。握力は限界に近い。それでも、気力と集中力を絶やすことはなかった。

イニングの先頭となった4番打者はセカンドゴロに討ち取った。続く5番打者にはファールで粘られながら9球を投じ、最後は142キロのストレートでライトフライに抑えた。井上にとって、社会人になってから初となる公式戦での完投まで残すはワンアウト。左腕は再び気力を振り絞り、6番打者を迎えた。変化球2球で軽やかにストライクを重ね、早々に打者を追い込んだ。ボール球を1球挟み、渾身のストレートを立て続けにファールされた。6球目と7球目はボール球となりフルカウント。だが、井上は強かった。成長した姿が、そこにはあった。

8球目。この試合を通じて投げた120球目は力のこもったボールだった。打球が二塁手・北阪真規の頭上に力なく上がる。白球はグラブに収まった。井上の顔に、やっと安堵が広がった瞬間だった。

疲れはなかった?

「正直、6回表ぐらいからありましたが、最後まで気持ちで投げました。ジェイプロジェクトは、昨年まで公式戦で連敗を喫している相手でしたし、何としてでも勝ちたかった。ブルペンで準備をしてくれていた他のピッチャーを休ませることができて勝利したことが何よりもよかったです」

井上は、最後までマウンドに立ち続け、チームに勝利をもたらしたことを素直に喜んだ。そして、1年前の自分を脳裏に浮かべるのだ。

「昨年の今頃を思うと……」

登板機会が少なかった昨シーズン。都市対抗ではベンチ入りすらできずに、仲間のプレーをスタンドから見つめることが多かった。「何もできなかった1年」。不甲斐ない自分への苛立ちと悔しさ。現役引退すら覚悟したという2018年を考えれば、今こうしてマウンドに立っていること自体が、井上にとっては大きな喜びなのだ。ましてや完投勝利である。嬉しさは一入だった。

今シーズンにかける思いは序盤から伝わった。140キロを超える伸びのあるストレートが打者のバットを押し込む。2回裏には、一死から2者連続の空振り三振。ともに決め球は、威力のあるストレートだった。4回表は二死から1点を先制されて井上自身も「反省すべき点」と振り返るが、後続を討ち取って追加点を与えない。先発左腕の好投に応えたい打線は5回裏、6番大谷拓海のセンター前ヒットを皮切りに、相手の失策が重なり一気に勝ち越す。さらに3番市根井隆成、4番根岸晃太郎に連続適時打が生まれて点差は3点に広がった。さらに6回裏には6番大谷の右中間フェンス直撃の二塁打と7番須田凌平の犠打で一死三塁として、代打・木村天響のライトへの犠牲フライで5点目が入る。井上のピッチングに、さらに強い気持ちが加わったのはその直後からだ。力強いストレートは変わらない。中盤から終盤にかけては、100キロ台の緩いカーブやスライダー、さらにフォークボールが面白いように決まる。変化球の精度は抜群だ。捕手の須田は言う。

「初球から振ってくる相手の積極策をうまく利用しながら、効果的に変化球を使って奥行きのある配球ができた。試合を通じて、変化球でカウントを整えられたのが大きかったと思います」

井上の成長したボールを、須田はキャッチャーミット越しに実感した。同時に、最後まで「強い気持ちを感じた」とも言う。

1失点完投。

予選リーグ2勝目を振り返り、初芝清監督は「今日は井上のピッチングに尽きる」と言った。120球の熱投には、井上の成長のすべてが詰まっていた。

(文・写真:佐々木亨)