コラム
グリーンキーパーだけが知っている「セガサミーカップ」の裏側
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今年で17回目を迎えた「長嶋茂雄INVITATIONAL セガサミーカップゴルフトーナメント(以下、セガサミーカップ)」。
国内男子ツアーにおける夏の名物トーナメントになっており、過去には石川遼プロ、藤田寛之プロ、谷原秀人プロなど日本を代表するトップ選手が優勝者に名前を連ねています。
その大会を開催しているコース「ザ・ノースカントリーゴルフクラブ(以下、ノースカントリー)」の舞台裏について、約30年にわたりグリーンキーパー(※1)をつとめてきた太田勉さんに話を聞いてみました。
(※1)ゴルフコース全体の管理やメンテナンスを行う職業。一般的に「コース管理者」と呼ばれる。

- ―まずは「セガサミーカップ」を開催しているノースカントリーの特徴について教えてください。
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太田:「最大の特徴はフェアウェイもグリーンもオールベント芝(※2)になっていることです。一般的な関東や関西のコースだと、グリーンがベント芝で、フェアウェイやラフは高麗(コウライ)芝になっています。北海道ではベント芝のコースが多いですが、日本で初めてオールベント芝を採用したのは、このノースカントリークラブです。」
(※2)ゴルフコースに採用される芝を大きく2つに分けた際に西洋芝に分類される芝。一方の日本芝には、高麗芝、野芝などがある。

- ―ベント芝でプレーすると何が違うのですか?
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太田:「フェアウェイは高麗芝や野芝に比べると少し柔らかく感じると思います。フェアウェイに止まってもボールが少し沈んでいて、高麗芝、野芝に慣れている方だとトップのミス(ボールの上部を打ってしまうミス)が出やすくなります。しかし一方で、プロゴルファーからは『アイアンとボールの間に芝が挟まれにくいので、スピンコントロールが効いて、距離感を合わせやすい』と言われます。」
- ―確かに、ベント芝が得意な選手もいますね。
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太田:「今年優勝した岩田寛プロや2016年に優勝した谷原秀人プロはまさにアイアンを得意としたタイプで、ノースカントリーが得意な選手は、関東では数少ないですがベント芝を採用しているコースの大会でも上位に来ることが多いですね。」
- ―大会の開催時は普段と何を変えているのですか?
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太田:「最も違うのはグリーンスピードです。通常はスティンプメーター(グリーンの速さを計測する機械)で9〜10フィート(約304cm)にしていますが、試合のときは12フィート(約365cm)にしています。わかりやすく言えば、いつもと同じ強さの感覚で打っても大会のときは60cmくらい転がるようになっています。」
- ―コースの設計はJGTO会長の青木功プロですよね
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太田:「そうですね。1990年代から私はグリーンキーパーとして青木功プロと一緒にコースのセッティングに携わってきましたが、当時はマスターズを開催しているオーガスタナショナルGCの芝を管理している博士を日本に呼んで、芝の配合からこだわって最高のベント芝を作りました。青木功プロはアメリカだけでなく、イギリスやスコットランドの試合も経験していますので、世界基準のレイアウトや芝のコンディションを追求していたと思います。」
- ―大会に向けた準備はいつから始めていますか?
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太田:「今年の大会が終わったら、もう来年の大会の準備をはじめているので、約1年間をかけてトーナメントで最高の芝になるように仕上げています。北海道は1月から3月までは80センチから1メートルの雪が積もってしまうので、その期間はゴルフ場もクローズします。そのため4月に雪が溶けたときの芝の状態が1年を左右します。雪によるダメージを少なくするために、秋には雪に備えてエアレーション(※3)をしたり、芝が痛んだところの手入れをしたりしておく必要があります。」
(※3)グリーン等に無数の小さな穴を明け、芝の根の成長のためのスペースを確保すると共に、芝の根に酸素を送り込むことで、芝の成長を促進するのが目的で行われる手法。

- ―ちなみに今年の大会の芝のコンディションはいかがでしたか?
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太田:「春先の芝の状態がよかったので、今年はすごく順調でした。ただ、大会2日前に1時間で100mmを超える大雨が降った影響で翌日は水分量が多くなってしまいましたが、そこから何とか仕上げることができました。グリーンのスピードも12フィートをキープしたまま最終日までいけたので、選手や関係者の皆さんからもすごく良い評価をしていただけました。」
- ―大会では16番ホール以降、残り3ホールでドラマが起きることが多い印象ですが、その理由は何かありますか?
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太田:「終盤での優勝争いのプレッシャーなどももちろんあると思いますが、コース側の立場で言えば16番の池がトリックかなと思います。大会が開催される8月は池の水が蒸発しています。その影響で上空では風が舞った状態になる。そのため16番と17番では風向きが違ってきます。その風が1打差の争いになってきたときにドラマを生んでいることもあるのかなと思います。これは、コース設計をした青木功プロのこだわりでもあるんですよ。」

すでに来年に向けた準備をはじめていると語る太田グリーンキーパー。来年のセガサミーカップでは16番以降の風にも注目して大会観戦を楽しんでみてください。
次回は、大会のコースセッティングアドバイザーを務め、現在セガサミーホールディングス所属の渡辺司プロのインタビューをお届けします。
取材・文/野中 真一