「ぷよぷよ」の現在地
「ぷよぷよ」は、落ちてくる「ぷよ」を積み上げながら、4つ以上の同じ色の「ぷよ」をつなげて消していく、株式会社セガ(以下、セガ)のアクションパズルゲームです。家庭用ゲーム機をはじめ、アーケード版、アプリ版などさまざまなプラットフォームで展開されてきました。シンプルながらも奥深い戦略性と魅力的なキャラクターデザインが長く愛され、2026年で誕生から35周年を迎えます。
「ぷよぷよ」35周年のキービジュアル
その35年の歴史の中で、「ぷよぷよ」はさまざまな領域へ展開してきました。一般社団法人日本eスポーツ連合(現日本eスポーツ協会、以下JESU)が活動を開始した2018年、日本でeスポーツが興隆し始める中で、「ぷよぷよ」はいち早く競技タイトルの一つとして認定されました。セガが「ぷよぷよチャンピオンシップ」などの公式大会を運営することに加え、2019年にはJESU主催のeスポーツ大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」にも採用され、数種類ある競技タイトルの中で唯一「小学生部門」を設けています。
さらに、eスポーツは競技として楽しまれているだけでなく、認知症予防や交流などを目的とした高齢者向けのイベントなどでも注目されています。こうした取り組みは日本全国に広がっており、「ぷよぷよ」もそのシンプルでわかりやすいゲーム性から、さまざまなイベントで活用されてきました。
「GigaCrysta Presents ぷよぷよファイナルズ SEASON4」の様子
このように子どもから高齢者まで幅広い世代で親しまれている「ぷよぷよ」ですが、近年は学校の教育現場でも目にするようになりました。2020年6月、セガは「ぷよぷよ」を題材として、本格的なプログラミングの基礎を学ぶことができる教材『ぷよぷよプログラミング』の無償提供を開始しました。
『ぷよぷよプログラミング』の概要
『ぷよぷよプログラミング』では、「ぷよぷよ」の製品版の画像素材を使いながら、HTMLとJavaScriptで書かれたソースコードを用いてプログラミングを学ぶことができます。テキストやサンプルコードはオンラインで公開されているため、PC端末とインターネット環境があれば誰でも利用可能です。子ども向け教材として一般的なのは、命令が書かれたブロックをパズルのようにつなぎ合わせて論理構造を学ぶビジュアル型のプログラミング教材ですが、『ぷよぷよプログラミング』では、見本のソースコードを見ながら必要なコードをキーボードで入力していく「写経」形式を採用しています。これにより、実際のプログラミングに近い状況で、より本格的なプログラミングスキルを学ぶことができます。
『ぷよぷよプログラミング』の画面。画面中央のソースコードを書き換えると、右側のゲーム画面にすぐに反映されます
こうした教材を用いて、セガのグローバルeスポーツ推進部は全国各地の教育委員会や学校、eスポーツ団体や企業が主催するイベントで出前授業やワークショップを実施してきました。単にプログラミングの授業をするだけでなく、参加者同士で教え合うワークや、作ったゲームの発表会など、毎回その参加者に合わせて内容をカスタマイズしています。さらに、システムエンジニアの経験を持つ、「ぷよぷよ」のプロeスポーツ選手を講師に起用し、プログラミングの授業に加え、プロ選手の実際の仕事を紹介するなど、子どもたちへのキャリア教育にもつながるワークショップになっています。
出前授業の様子
また、このようにセガが実施してきた出前授業などの企画、運営で培った知見、教育現場からの声や専門家による監修をもとに、2022年には教員向けに副教材の無償提供も開始しました。『ぷよぷよプログラミング』を用いた授業づくりの手引きや、授業で使用できる配布用プリントなどを副教材として提供することで、プログラミング教育に不慣れでもしっかりと授業を設計することができるようになっています。この副教材は、小・中学校・高等学校の学習指導要領に対応しており、学校の授業に必要な要素も押さえられています。
これまで160校以上での出前授業の実績がある『ぷよぷよプログラミング』ですが、その道程にはさまざまな試行錯誤と挑戦がありました。『ぷよぷよプログラミング』はいかにして学校教育のシーンに入り込んだのか、そこで子どもたちに何を届けようとしているのか。立ち上げからこのプロジェクトを推進してきたセガ East統括本部 マーケティング本部 グローバルeスポーツ推進部 部長 五十嵐 勝さん(以下、五十嵐さん)と、「ぷよぷよ」シリーズのプロデューサーであるセガ JAStudios第1事業本部 第2事業部 細山田 水紀さん(以下、細山田さん)に話を伺いました。
左から五十嵐さん、細山田さん
「ぷよぷよ」教材化への道
2018年、セガはeスポーツ事業に本格参入しました。数あるタイトルの中でも、幅広い世代に親しまれ、高い認知度を誇る「ぷよぷよ」は、セガのeスポーツ事業を象徴する存在です。しかし、大会運営に関して、五十嵐さんは課題を感じていました。
五十嵐
eスポーツの「ぷよぷよ」競技は、25、6歳くらいの選手がボリュームゾーンでしたが、将来もっと多くの方にプレイしてもらうためには、小・中学生などもっとジュニアの選手にも参加してもらいたいと思っていました。JESU主催のeスポーツ大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」では、セガの「ぷよぷよ」だけが小学生部門を設けてもっとジュニアの裾野を広げようとしていたのですが、それだけではうまくいきませんでした。そこで、子どもたちが通っている学校で、なんとか接点をもてないかと考えるようになりました。
しかし、学校現場では、授業でゲームを扱うことに少なからぬ抵抗感がありました。
五十嵐
学校でeスポーツに触れてもらおうと思っても簡単ではなく、どうすれば受け入れてもらえるのか、さまざまなことを考えていました。そんな中、2020年から新たな学習指導要領の実施により、小学校、中学校、高等学校でプログラミングが順次必修化されることを知り、この動きに連動して「ぷよぷよ」を学校現場に展開できないかと思い企画したのが、「ぷよぷよ」を用いたプログラミング教材です。そして、小学校でプログラミングが必修化された2020年、プログラミング教材『ぷよぷよプログラミング』をリリースしました。
五十嵐
この教材を使って、実際に学校に行って出前授業をさせていただこうかと考えました。とはいえ、当初は学校現場と連携した経験がありませんでしたから、本当に手探りです。セガサミーの本社が品川区にあることから、最初は区内の校長先生方が集まる「校長会」でプレゼンをする機会をいただきました。わずか3分の持ち時間でしたが、そこで『ぷよぷよプログラミング』を用いた授業をプレゼンしたところ、後日に2校から「やってみてもいいよ」というご連絡をいただけました。
最初の2校での実施を皮切りに、『ぷよぷよプログラミング』の出前授業は次々と実績を重ねていきました。一度実績ができると、校長先生同士のコミュニティで評判が広がり、他の学校からも声がかかるようになります。
学校教育とゲームの間にあった“見えない壁”。『ぷよぷよプログラミング』がそれを乗り越えられた理由を、細山田さんはこう分析します。
細山田
教材として考えたとき、まずは先生や保護者の方々が理解しやすいゲームである必要があります。その点、「ぷよぷよ」は同じ色の「ぷよ」を4つつなげて消す、というシンプルなルールでわかりやすかったと思います。プレイに応じて点数が加算されるという計算要素もありますので、数学的思考と無縁ではありませんし、暴力的な表現がなく全年齢対象のゲームですので、小学生がプレイしても心配がありません。そして何より、「ぷよぷよ」は先生や生徒、その保護者といった、幅広い世代に知られていました。今考えてみると、学校現場でも受け入れやすい条件が揃っていたのだと思います。
細山田
さらに、「ぷよぷよ」はプログラミング教育と掛け合わせるうえでも適したコンテンツでした。落ち物パズルゲームというだけでそれなりにプログラミングとの親和性はありますが、ゲームの根幹であるソースコードを一般に公開する、という高いハードルを乗り越えられたことも非常に大きかったです。これらの本当にさまざまな要因が奇跡的に重なり合った結果、「ぷよぷよ」はプログラミング教材として誕生し、学校の現場に浸透していくことができたのです。
子どもたちの「楽しい」を引き出す、教材開発の工夫
『ぷよぷよプログラミング』は、実際の授業を綿密に想定しながら、さまざまな工夫を凝らしてつくられています。
五十嵐
授業時間を最大限に活用できるよう手軽さを重視し、ソフトウェアのインストールが不要で、ブラウザ上で2クリックするだけですぐに始められる設計にしました。通常、プログラミングは数十行もの長いコードを書かないと動かないことが多いのですが、それでは子どもたちが飽きてしまいます。そこで、あらかじめ記入してあるサンプルコードの一部を少し書き換えるだけで色やスピードが変わる仕様にし、目に見える変化がすぐに起こるよう工夫しています。
生徒のオリジナルの「ぷよぷよ」風ゲーム。コードを書き換えることで、絵や写真を「ぷよ」の代わりに当て込むことができます。
その成果は子どもたちの反応にも表れています。
五十嵐
子どもたちの反応はとても良いですね。自分でコードを書き換えて、「ぷよ」や背景の色が変わったり、「ぷよ」の落ちるスピードが変わったりすると、楽しそうな歓声が上がります。ソースコードは一文字でも打ち間違えるとエラーになってしまうものですが、そのエラーの原因を自分で探し、間違いを修正していく過程が、子どもたちの論理的思考力を養ううえではとても大切です。そういった試行錯誤を繰り返しやすいよう、目に見える変化で子どもたちを飽きさせないように工夫しているのです。
プログラミング教育から発展する学び
『ぷよぷよプログラミング』は、ただゲームに触れるだけでなく、その仕組みを自らつくる体験を提供しています。このユニークなアプローチは、プログラミング教育にとどまらないさまざまな学びの機会を生み出しています。
五十嵐
茨城県常陸大宮市の高校では、『ぷよぷよプログラミング』の授業を受けた生徒たちが、地域のショッピングモールで小学生にプログラミングを教えるイベントを先生方と一緒に開催しました。学んだことを他者に伝える経験は、プログラミングスキルだけでなく、主体性やコミュニケーション能力を育てます。また、小学生と高校生という、学年の枠を越えた交流にもなっていますね。
交流という側面に目を向けると、『ぷよぷよプログラミング』を用いて開催するイベントは世代間交流の場にもなっています。
五十嵐
福島県楢葉町では、小・中学生とシニアの方々が一緒に『ぷよぷよプログラミング』を体験するワークショップを開催しています。全4回で、第3回までの各回では40名前後が参加するほか、最終回となる第4回では学校関係者や保護者、地域行政の関係者を含む200名弱が参加する大きなイベントになりそうです。昨今は、高齢者のデジタル学習機会の少なさが社会課題の一つになっています。今回のイベントは、小・中学生とシニアが対等に学び合う、新たな交流の場になっています。
楢葉町でのワークショップの様子
これらの取り組みでは、プログラミング教育が接続点となって、世代を超えたコミュニケーションを生んでいます。しかし、『ぷよぷよプログラミング』が子どもたちに届けるのはプログラミング教育だけではありません。細山田さんはこう説明します。
細山田
プログラミングそのものの学習はもちろんですが、同時にゲームづくりの世界を子どもたちに伝えています。英語で書かれたソースコードに触れ、パズルゲームを組み立てる際には数学的思考力を使い、ゲームのイラストには絵を描く力や感性が活かされます。このように、学校で学ぶさまざまな力がゲームづくりに通じていますから、自分たちの学びを将来どのように活かせるのかということと結び付けながら、「世の中にはゲームクリエイターのような仕事もあるんだよ」というメッセージを伝えます。つまり、一種のキャリア教育ですね。実際、学校の先生方から授業の依頼をいただくときも、純粋なプログラミング教育に加え、キャリア教育の側面にも期待を寄せていただくことが多いです。
『ぷよぷよプログラミング』の出前授業では、プロのeスポーツ選手が講師となることも大きな特徴です。プロの話を直に聞いたり、言葉を交わしたりすることは、子どもたちにとってゲームに携わる仕事の解像度を上げる絶好の機会です。
プロeスポーツプレイヤーのぴぽにあ選手を講師に招いた出前授業
細山田
こうした活動は会社にとって直接的な利益を生むものではないのかもしれません。しかし、子どもたちがゲームに携わる仕事に興味を持つきっかけとなり、将来のゲームクリエイターを生み出す可能性を秘めているのであれば、これはエンタテインメント企業として重要な未来への投資だと考えています。
また、講師を務める選手にもメリットを感じてもらいたいと、五十嵐さんは話します。
五十嵐
プロとはいえ、eスポーツ選手の知名度はまだまだ高いとは言えません。彼らがどんな活動をしているのか、知らないという方も多いと思います。私としては、このワークショップをとおして、選手たちが学校関係者や自治体の皆さまに知ってもらうと同時に、自身の経歴を活かしたセカンドキャリアについて考える機会にもしてもらえたらよいと考えています。
『ぷよぷよプログラミング』のこれから
最後に、お二人からこれからの『ぷよぷよプログラミング』の展望を話していただきました。
細山田
先ほどはこの取り組みがエンタテインメント業界の未来への投資だとお話ししましたが、個人的には『ぷよぷよプログラミング』を体験した子どもたちの中から、「ゲーム開発に興味を持った」と言って将来セガに入社してくれる子が現れたら最高だと思いますね。『ぷよぷよプログラミング』をきっかけにゲームに携わる仕事に興味を持つ子どもたちが増え、ゲームづくりだけではない、ゲームに関わる仕事を体験し、eスポーツのプロ選手を目指したり、エンタテインメント業界で働くことを夢見たりする人が一人でも増えれば嬉しいです。
五十嵐
『ぷよぷよプログラミング』の取り組みを始めてから6年が経ち、当初は基本的に無償で実施していたワークショップも、近年は全て有償で行わせていただけるほどに評価いただいてきました。すでにゲームが教室の中で活躍できる時代になって、『ぷよぷよプログラミング』にできることは増えてきています。今やAIがソースコードを書くことができる時代とはいえ、そのソースコードを正しく読解し、活用するにはやはりプログラミングの知識が不可欠です。その基礎を身につけてもらうという意味でも、『ぷよぷよプログラミング』を通じて子どもたちに教えられることはまだまだたくさんあります。実際、これまで160校ほどでワークショップを開催してきましたが、終わった後に私のもとに来て「面白いのでもうちょっと続けていいですか」「どうしたらここを変えられますか」と関心を持ち、もっと学びを深めたいと思ってくれる子どもたちがいました。彼らの熱意に応えられるよう、ソースコードをもっと分解して説明できるようにし、詳しく学べる教材を準備するなど、この先も常にアップデートし続けていきたいと思っています。また、近年は協力会社の力も借りながら、シンガポールやイギリスなどでもワークショップを開催してきました。今後は、このeスポーツ×プログラミングというパッケージで、海外でも活動をもっと広げていきたいですね。
eスポーツの浸透という、教育とは異なる角度から始まった『ぷよぷよプログラミング』。しかし、学校現場との接点を模索するなかで、子どもたちにとってはどんな形の教育が有用か、ゲームである「ぷよぷよ」だからこそできるやり方はないかを探し求めた結果、単なるプログラミング教育にとどまらず、キャリア教育にもつながる取り組みになりました。これからも『ぷよぷよプログラミング』は、時代とともに進化を重ねながら、新たな学びの可能性を広げていきます。
【公式サイト】
ぷよぷよプログラミング:https://puyo.sega.jp/program_2020/
ぷよぷよポータルサイト:https://puyo.sega.jp/portal/index.html
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