戦評・コラム
第69回JABA静岡大会 予選リーグ vs 三菱自動車岡崎
2023.04.06 [Thu] 14:00VS 三菱自動車岡崎
場所:清水庵原球場
立ち上がりのマウンドで、先発の飯田大翔は出鼻をくじかれた。1ボール1ストライクから投じたスライダーを先頭打者に右翼スタンドへ運ばれた。動揺しても不思議ではない場面だ。しかし、今シーズンの飯田は一味違う。先取点を奪われてからのピッチングが冴え渡る。
「変化球を狙われている」
相手打線を冷静に分析して、2回表からはストレートの割合を増やしながらマウンドを支配した。「うまくシフトチェンジできた」というピッチングが、さらに精度を高めていったのは試合中盤からだ。4回表は、サードへのファウルフライに空振り三振、そして、セカンドへの力のないフライで三者凡退。5回表と6回表は、ともに2つのフライと空振り三振で三者凡退。7回表も、わずか9球で三者凡退に仕留めるのだから、非の打ち所がない。
「ストレートで押し切れたところもあった」
三菱自動車岡崎の各打者がストレートに差し込まれるシーンがたびたび見られたように、飯田の質の高いボールは終盤になっても衰えることはなかった。単打2本を浴びた8回表も、二塁手・福森秀太の好守に助けられながら無失点。初回の1失点を忘れるほどに、完璧に近いピッチングを見せた。
9番福森のセンターオーバーの二塁打、1番根岸晃太郎のレフト前ヒットで無死一、三塁と攻めた6回裏、2番植田匡哉のセカンドゴロの間に同点。7回裏には、7番大谷拓海の右中間へのヒットを足掛かりに、「やっと活躍ができました」と振り返る9番福森の2打席連続となる二塁打で勝ち越しに成功。粘り強く攻めた打線の援護も、飯田のピッチングを加速させる要因だった。
1点差で迎えた9回表は、守護神・石垣永悟が仁王立ちだ。見逃し三振にショートゴロ、最後は空振り三振と、完璧なピッチングで飯田の快投に花を添えた。
102球を投じて8イニングスを投げ切った飯田は、自身最多となる球数と最長イニング数でJABA大会での初勝利を挙げた。陶久亮太コーチは言うのだ。
「試合前日に西田(真二)監督からは『長いイニングをいくぞ』と言われた中で、飯田はよく投げました。捕手の吉田(高彰)が飯田の良さを引き出しながら、うまくリードしてくれたのも大きい。いずれにせよ、今日の飯田は本当によかった」
入社6年目の右腕は「(初勝利まで)だいぶ時間がかかりましたけど……」と苦笑いを浮かべるのだが、チームにとっても今大会初勝利をもたらしたそのピッチングは、誰もが認めるものだった。
「ここからもっとピッチングの状態を上げていきます」
厚い雲に覆われた清水庵原球場で、自信に満ちた表情を浮かべる飯田が頼もしかった。
文 : 佐々木 亨