戦評・コラム
第94回都市対抗野球大会 東京都二次予選 vsJPアセット証券
2023.05.22 [Mon] 13:00VS JPアセット証券
場所:大田スタジアム
晴天の大田スタジアムに、リズミカルな応援が広がる。一塁側スタンドに響くその音色に後押しされるように、先取点を奪ったのは試合序盤だ。2回裏、イニングの先頭となった5番北川智也が相手二塁手の失策で出塁する。6番須田凌平がレフト前ヒットを放ち、7番宮川和人のピッチャーゴロで一死二、三塁。そのチャンスで打席に立ったのは、8番根岸晃太郎だ。
「初球からいく」
そう心に決めて振り抜いた打球が、センターへ舞い上がる。犠牲フライには十分だ。三塁走者の北川がタッチアップからホームを駆け抜け、待望の先取点を奪った。
「消極的な打撃ではいけない。積極的な姿勢の大切さを改めて感じた」
今シーズン、なかなか打撃の状態が上がっていなかった根岸はそう振り返る。同時に、どんな形でもチームを勢いづける「1点」に貢献できたことを心から喜ぶ。なおも二死三塁から、9番高本康平の打球が相手遊撃手の失策を誘い2点目が入るのだから、根岸の一打が生んだ先制のシーンがどれだけ大きかったことか。都市対抗二次予選にある独特の緊張感を和らげる序盤の攻撃は、一塁側ベンチに勇気と活気をもたらした。
4回裏には、二死からの追加点だ。9番高本が相手三塁手の失策で出塁。1番植田匡哉がレフト前ヒットを放って二死一、二塁。2番高島大輝に、第1打席に続くセンター前ヒット
が飛び出して3点目が入ったのはその直後だ。6回裏には、イニングの先頭となった7番宮川がセンター前ヒット。積極さを取り戻した8番根岸がライト前ヒットを放って無死一、三塁。9番高本がセカンドゴロに倒れて一死を奪われるが、なおも続く一、三塁の場面で1番植田がライトファウルゾーンへ飛球を放つ。タッチアップの体勢を作り、迷いなくスタートした三塁走者の根岸がホームへのヘッドスライディングを見せて4点目が入ると、一塁側ベンチとスタンドは大きな歓声に包まれた。
タイムリーヒットでの得点は、わずかに1点。それでも、そつのない攻撃で得点を重ねた攻撃は、先発マウンドに立つ草海光貴にとって大きなエネルギーとなった。試合序盤は、相手打線にうまくコンタクトされる場面が目立ち、3回表までに5安打を浴びて1失点。それでも中盤以降は、チェンジアップやカーブをうまく織り交ぜながら要所を締めた。三遊間へのヒット性の打球を何度となくアウトにした遊撃手の中川。二遊間の難しい打球を軽快に処理した二塁手の北川。あるいは4回表と7回表、二塁への盗塁を許さなかった捕手・須田の守備もそうだ。そして、4回表一死一塁で犠打を試みられる中で得点圏への進塁を許さなかった草海自らのフィールディング。要所で光った守備にも助けられ、先発右腕はマウンドに立ち続けた。
「自分ができることをやるだけです。チームが勝てば、それでいい」
終盤になるとピッチングの精度はさらに増し、「草海のピッチングは尻上がりにどんどんと良くなった」と陶久亮太コーチも目を細めるほどだ。8回表は、見逃し三振、ショートフライ、そしてセカンドへのファウルフライと計9球で三者凡退に抑えた。迎えた9回表は、二死から死球で出塁を許すも、最後の打者はキレのある変化球でセカンドゴロに討ち取ってゲームを締めた。
投じた球は、105球。計7本のヒットを浴びたが、そのいずれもが単打で長打はない。最後まで投げ切って完投勝利。草海の「エースの貫禄」がそこにはあった。
投打に粘り強さと勢いを感じた初戦。その戦いは、都市対抗の代表権獲得に向けて大きな一歩となった。
文 : 佐々木 亨
写真:政川 慎治







