コラム
渡辺司プロが語る「セガサミーカップは欲深い選手が勝つ」の真意
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『セガサミーカップ』のキーマンにインタビューをする企画の第2弾。
今回は、現在セガサミーホールディングスに所属し、『セガサミーカップ』のコースセッティングアドバイザーを務める渡辺司プロにインタビューしました。
前回の記事はこちら➡グリーンキーパーだけが知っている「セガサミーカップ」の裏側

- ―今年の大会は岩田寛プロが19アンダーで優勝しました。優勝スコアについてどのような印象をお持ちでしょうか?
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20アンダーを優勝スコアの目安として、コースセッティングしています。
『セガサミーカップ』では“リスク”と“リターン”を常に意識していて、“リスク”をとって攻めた選手にはバーディ、イーグルのご褒美がある。
そんなセッティングになることを心がけています。
- ―“リスク”と“リターン”について具体的に教えてください
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ザ・ノースカントリーゴルフクラブ(以下、ノースカントリー)は池が巧妙に配置されているコースですが、それを避けてプレーする選手は優勝争いに加わることができません。
ボギー、ダブルボギーのリスクを背負いながら、果敢にピンを狙った人にのみバーディチャンスが生まれるホールが多いからです。
- ―その中で、カギになると思われるホールはどこですか?
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1つは名物ホールになっている16番のパー3。もう1つは、意外と注目されていませんが13番のパー5です。
まず16番については、四方を池に囲まれたアイランドグリーンになっているので、自分の球筋と池のリスクを考慮してティショットを打たなければなりません。また、風の影響を大きく受けるホールなので、すごく難しいと思います。
13番はパー5なので多くの選手がバーディを狙います。しかし、フェアウェイが狭くグリーンも小さいので、バーディを獲る選手がいる一方で、ボギーを叩きやすいホールにもなっています。そのため13番でスコアが上下に動くことが多いです。


- ―コースを設計した青木功プロは、渡辺プロの師匠でもあります。渡辺プロから見て、青木プロの設計したノースカントリーのコースはどうですか?
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何年もセッティングを担当させてもらっていますが、年を重ねるたびによく考えられたコースだと思います。
青木さんがノースカントリーを設計した当時、日本はバブル期の真っ只中。どんどんゴルフ場がオープンしていました。ただし、ほとんどのゴルフ場はどちらかと言えば不便な場所にあって、敷地内に山があったり、谷があったりして、意地悪な言い方をすればそれを誤魔化しながらコースを設計しなければなりませんでした。
しかし、ノースカントリーは一度整備された場所でしたので、奇跡的なくらいフラットな地形でした。そのため、青木さんが頭に描いていた設計やコンセプトをそのまま再現することができたと思います。
- ―トーナメントコースとしてのノースカントリーの魅力はどんなところにありますか?
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青木さんは最初からトーナメントを開催することを前提としてコースを設計していました。
したがって、プレーする選手や観戦するお客さんにとっても見ごたえのあるダイナミックなレイアウトでありますし、18番の奥にあるすり鉢状の地形も、最初からギャラリーエリアとして設計されていました。
また、これは全英オープンを開催しているR&A(英国ゴルフ協会)の人達と話をしたときに言われたのですが、彼らは「一人のチャンピオンを決めるために試合をしている。その一人は技術や戦略だけでなく、神に選ばれる運を持ち合わせている人です」という話をしてくれました。
青木さんはスコットランドのコースもすごく意識されているので、ノースカントリーは絶妙に“運の要素”も必要となる設計になっていると思います。
- ―大会前のセッティングで青木功プロとはどのような会話をされていますか?
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よく話をしているのは選手がナイスショットをしたときに、報われるセッティングにしようということです。
青木さんからはよく「(コースが)死なないようにセッティングをしろよ」と言われますが、それはまさに“リスク”と“リターン”というコンセプトに合致します。
例えば、大会の時でもラフの長さは60mmくらいに抑えています。洋芝なので60mmでも難しいのですが、決して勝負ショットを打てない長さではありません。ラフからでも果敢にピンを攻めれば“リターン”があるセッティングにしています。

- ―どんなタイプの選手が『セガサミーカップ』では有利だと思いますか?
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言葉を選ばずに言えば“欲深い選手”です。
調子が良いときはどんどんバーディを狙っていき、池があっても、アゲインスト(逆風)でも、ラフからでも勝負できる選手が優勝争いをしています。
- ―最後に、来年以降の『セガサミーカップ』の見所を教えてください。
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まず、ゴルフのプロというのは普通の仕事ではありません。
普通、仕事だったら仕事場に行ったら交通費は出ますから。でも、ゴルフの大会は130人くらいが出て、半分はその週の給料がゼロ、交通費も滞在費も自腹で帰っていく。
だからこそ、まさに人生を賭けて本気で戦っている選手達の姿は、見ているお客さんにとってはエンタテインメントになるし、楽しんでもらえると考えています。
その中でも「セガサミーカップ」は、今後も“リスク”と“リターン”というコースセッティングを心がけながら、最高のエンタテインメントとして楽しんでもらえるような大会にしていきたいです。
取材・文/野中 真一