コラム
スラムダンク奨学金で切り拓いたキャリア~サンロッカーズ渋谷を支える通訳の仕事とは
- スポーツ
- バスケットボール
2024年12月20日
セガサミーグループが運営するプロバスケットボールクラブ『サンロッカーズ渋谷』は多くのスタッフによって支えられています。今回は、スラムダンク奨学金※でアメリカに渡り、帰国後はプロバスケットボールプレーヤーとしても活躍した矢代雪次郎(やしろ ゆきじろう)さん(サンロッカーズ渋谷通訳兼サポートコーチ)が登場!バスケットボールを始めたきっかけ、通訳としてプロフェッショナルでいるためのこだわりまでお伺いしました。
プロバスケットボール選手を夢見て渡米
-
矢代
僕はスラムダンク奨学金の3期生として、20歳の頃アメリカに行きました。1期生が並里成(なみざと なりと)選手(現・ファイティングイーグルス名古屋)、2期生が谷口大智(たにぐち だいち)選手(現・島根スサノオマジック)でした。そして、僕の後に4期生の山崎稜(やまざき りょう)選手(現・広島ドラゴンフライズ)と続いていきます。今年が18期生になるので、すごいプログラムですよね。僕は両親が共働きで幼少期は学童保育に通っていました。そこに来ていた高校生ぐらいの方がバスケットボールを教えてくれたことがきっかけで競技を始めたんです。それ以来夢中になって、漠然と「アメリカへ行きたい」と思うようになりました。兄もバスケットボールをやっていたので、中学校に入ってからはNBAのことを教えてもらったり、それこそ『SLAM DUNK』にもハマりました。NBAを見始めたのは2004年頃、田臥勇太(たぶせ ゆうた)選手(現・宇都宮ブレックス)が日本人初のNBA選手になって、デトロイト・ピストンズが優勝したシーズンでした。当時家族旅行でアメリカに行って、ロサンゼルス・レイカーズの試合を見たんです。あの光景は今でも鮮明に覚えていますね。
矢代さんは小学校6年生の時に書いた『20歳の自分に向けた手紙』で、「アメリカの大学に行って、NBA選手になっているはず」と書いたそうです。スラムダンク奨学金に選ばれたことで、矢代さんの人生は当時思い描いていた以上に、かけがえのないものとなっていきます。
-
矢代
スラムダンク奨学金でアメリカに行けたことで、僕の人生は上振れしたと思います。アメリカでの生活も楽しいことばかりでした。本当に毎日が刺激的だったのですが、今振り返るともっと自分を客観視して、危機感を持たないといけなかったなと思います(笑) アメリカでバスケットボールができることが楽しすぎて、冷静に自分の足りないところを分析することが抜けていました。当時の自分に会えるなら、そこは伝えたい部分です。
矢代さんは約1年間のプログラムを現地で終えましたが、それからトータル6年間の月日をアメリカで過ごすことになります。
-
矢代
スラムダンク奨学金はプレップスクールの14ヶ月をサポートしてくれるプログラムで、その後の進路については特に決まりはありません。僕はアメリカで短大に入ってから4年制の大学に編入し、卒業しました。今この仕事をできているのは大学の時間を含めた6年間、アメリカで努力をしたからだと言いきれます。あの経験がなければ通訳になることはできなかったと思いますし、そもそもプロ選手にもなれていなかったと思います。並里選手と谷口選手は渡米前から世代別の日本代表を経験していて、日本に帰ってきてからも『プロ選手』というキャリアをイメージできていたと思います。一方3期生の僕は全国大会にも出場したことがなく、世代別の日本代表なんて夢のまた夢。そんな僕がスラムダンク奨学金のサポートを終えてただ日本に帰ってきたら、「アメリカでの生活も1年で終わってしまい、全く通用しなかったんだな」と思われるかもしれません。それが嫌だったんです。簡単に言えばプライドです。僕が頑張ることで、僕の後に奨学金制度に応募する選手たちに、たとえ高校で実績がなかったり、日本代表に選ばれていなくても、アメリカでバスケットボールをやれる可能性があるという姿を見せたかった。ですので、僕は14ヶ月だけでアメリカ生活を終えてはいけないと勝手に思っていました。
切り拓いたプロへの道
アメリカで過ごした6年間は、矢代さんのその後の人生を切り拓く礎となります。大学を卒業後帰国し、B.LEAGUEでのプロ選手のキャリアへトライするときも、アメリカでの経験が活き、見事夢を叶えました。
-
矢代
Bリーガーとして7シーズン活躍できたこと、そもそもプロ選手になれたことは、間違いなくアメリカでの経験があったからです。僕は選手時代から兼任で通訳もやっていましたが、通訳ができるからこそ選手として生き残れていると思っていました。その反面、シンプルに選手として認められるようになりたいと思いながらサバイブしていました。選手だけでやれていたら、また違う人生だったのかなと今でもたまに思いますね。
選手と通訳。葛藤しながらも二足のわらじを履きこなしてきた経験が、矢代さんの現在のキャリアにつながっていきます。2022-23シーズンをもって現役を引退(当時・香川ファイブアローズ所属)。その後2023-24シーズンから、サンロッカーズ渋谷でサポートコーチ兼通訳として、『名将』ルカ・パヴィチェビッチヘッドコーチとタッグを組むことになったのです。
名将との出会い
-
矢代
ヘッドコーチとして過去2度B.LEAGUEチャンピオンを経験しているルカヘッドコーチと出会って、僕の全てが変わりました。これまでもずっと通訳をやっていましたし、選手兼任だったこともあり、バスケットボールへの理解や知識には自信がありました。ところがルカヘッドコーチと出会ってから、知らない英単語がものすごく出てくるんです。実は今もパソコンに何百という単語をメモしたリストがあり、日々更新しています。ルカヘッドコーチから分からない単語を言われたらすぐにパソコンに打ち込み、見返せるようにするためです。そのリストが500単語ぐらいあるのですが、知っている単語でもルカヘッドコーチの意図している意味と自分が理解していた意味が間違っていないのかを日々精査しています。そして、それをどのように選手へ伝えるのか常に考えながらアウトプットします。そうした毎日は、選手時代とは違うサバイブの日々です。どのように伝えるべきで、どの日本語が最も適したものなのか。知っている単語でももう一度、複数の辞書を引いて、「こういう意味もあるのか。こっちの方がわかりやすい」という作業をやり続けています。
- -11月10日の茨城ロボッツ戦の試合後会見では、まさにその場面が訪れ、会見場が笑いに包まれましたね。
-
矢代
あの日試合後の会見で、ルカヘッドコーチが言った「molecule(モレキュール)」という単語の意味がわからず、コーチがすぐ「例えばH2O。H2つとOだ」と補足してくれました。それで「分子」という意味の単語だということに気付き、彼は「選手が分子のようにたくさん動き連携する」ということを伝えたいのだと分かったのですが、本当は僕がパッと答えられるようにしないといけませんでした。あの単語も会見後、すぐにパソコンのリストに入れました。ルカヘッドコーチは言葉選びや語りがものすごく上手で、それが選手のモチベーション向上にも繋がります。だからこそ、彼の価値観やバスケットボール観をもっと知っていかないといけないと感じています。昨シーズンは、ルカヘッドコーチの言葉を選手たちにうまく届けられないことがあり、余計なストレスを与えてしまうことがありました。1年の時間を共有して、かなりスムーズに訳すことができるようになりましたが、最初の頃は「あれ、自分は英語を喋れたんだっけ?」と思うぐらい、彼の言葉のチョイスや例えの上手さに僕自身がついていけていなかったです。
練習の取材時も常にルカヘッドコーチの隣に陣取り、指示を即時に日本語に訳し選手へ伝えていた矢代さん。言葉だけでなく、ルカヘッドコーチの表情や動きも観察し、コーチのパッションや感情すらも熱く伝えようとする、気迫に溢れた姿が印象的でした。
昨年のW杯等を経てプレイレベルが高まっているB.LEAGUEにおいて、通訳がどんな間合い、どんな言葉でヘッドコーチの意図を選手に伝えるのかということは、間違いなくチームの強さに直結します。言葉をただ訳すだけではなく、思いを共有するために黒子に徹しながら自分の役割を全うする矢代さん。そんな矢代さんが思う、セガサミーグループのMission/Purpose「感動体験を創造し続ける~社会をもっと元気に、カラフルに。~」を体現する方法とは。
-
矢代
通訳の仕事は英語だけができてもダメですし、逆にバスケットボールを理解できているだけでもダメだと思います。言葉をより的確に伝えて、さらに受け手に寸分の狂いなく理解してもらうことが大切です。僕自身もその質を向上させ続けていかないといけないと思っています。プロである以上、勝利することが全てだと思いますし、勝利するために自分が与えられた仕事を全うしていくことがプロの責任です。ルカヘッドコーチが全てに妥協なく、細部にまでこだわり追求して得た勝利の中に、応援してくれるファンの皆さんや支えていただいているスポンサー様、地域の皆さんに感動していただけるエッセンスが詰め込まれているはずです。勝利によって感動体験を皆さんと共有するためにも、僕はルカヘッドコーチの分身になり続け、このチームが優勝するための力になっていきたいです。
国内トップクラブの1つであるサンロッカーズ渋谷の躍進を支える裏方の仕事。目立たずとも大きな役割を果たすチームスタッフの努力は、コートで戦う選手たちの想いと共鳴し、サンロッカーズ渋谷初のB.LEAGUE制覇へ向けた強さの推進剤となるはずです。
セガサミーホールディングスでは、スポーツコラムの情報などを発信する『SEGA SAMMY×SPORTS』のXアカウントを運用しています。
下記ボタンから是非フォローをお願いいたします!