戦評・コラム
第94回都市対抗野球大会 東京都二次予選 vs NTT東日本
2023.06.06 [Tue] 14:00VS NTT東日本
場所:大田スタジアム
勝ちたい、勝たなければいけない――。こみ上げる強い思いが詰まった雄叫びが、スタンドにまで響き渡る。
「オォォラァァ!」
常にポーカーフェイスでマウンドを守る先発の草海光貴が、感情を露わにピンチを脱したのは試合序盤だ。長短打3本で二死満塁とされた2回裏、NTT東日本の9番打者を迎えて草海がピッチングのギアを上げる。2ボール2ストライクからの6球目。「決め」に行った外寄りのボールで空振り三振を奪うと、溢れる感情とともにグラブを右手でポンと叩いて無失点のマウンドを噛みしめた。
「草海は序盤から飛ばしていった」
キャッチャーミット越しに先発右腕の気迫を感じ取っていたのは、捕手の須田凌平だ。4回裏に先頭打者からの連打で二、三塁と攻められ、7番打者のレフトへの犠飛で1点を先制されるも、後続を討ち取って最少失点でしのいだのは草海のエースとしての意地か。
熱量がたっぷりと詰まったピッチングと同様に、打線が勝利への執念を見せたのはその直後だった。5回表、イニングの先頭となった6番中川智裕がフルカウントから四球をもぎ取って出塁する。7番須田の犠打で得点圏に走者を進めると、8番北川智也もフルカウントから四球を選び、9番根岸晃太郎のライトへの犠飛で一、三塁。さらに1番植田匡哉も四球で二死満塁とした。そのチャンスで打席に立ったのは、2番砂川哲平だ。最終決戦を迎えて「覚悟を決めていた」と語る9年目の左打者が、右中間へタイムリーヒットを放って同点。砂川の一打で二塁走者の北川がホームを狙うも、相手外野手の好返球で勝ち越しとはならなかったが、失点直後の同点劇は一塁側ベンチとスタンドに大きな勇気を与えた。
5回裏から登板した舘和弥も気迫は十分だ。2イニングスを無失点。7回裏に一死二塁からタイムリーヒットを浴びて1失点するも、マウンドに立つ姿からは勝利への渇望が十分に伝わってきた。なおも続く一死二塁のピンチで登板した古屋敷匠眞が、NTT東日本打線を力でねじ伏せて追加点を許さなかったのだから、勝利を信じる思いが消えることはない。直後の8回表には、9番根岸の四球と盗塁などで二死三塁として、「チームに勢いをつけるのが役割」と言い切る3番高島大輝がライト前へタイムリーヒットを放って再び同点。その攻撃には、薄れることのない「勝利」の二文字がはっきりと映し出されているようだった。
信じ続けた思いが確信に変わったのは、無死一、二塁から始まるタイブレークに突入した延長10回表だ。代打・宮川和人のピッチャーゴロの間に二、三塁として、二死後、1番植田の初球が相手投手の暴投となり1点を勝ち越し。植田が四球を選んで二死一、三塁とすると、2番砂川がライト前へタイムリーヒットを放って4点目が入る。
「前日にタイブレークの練習をしていたんです。イメージ通りに攻められた」
砂川は、勢いを加速させた一打をそう振り返る。さらに3番高島と4番黒川貴章にもタイムリーヒットが飛び出すのだから、熱気は高まるばかりだ。二死からの怒涛の攻撃で手にした10回表の「4点」は、その裏のマウンドに立つ古屋敷にとっても大きな援護となった。
「(10回裏のマウンドは)緊張はありましたけど、4点差があったので気持ち的には余裕を持って投げられた」
無死一、二塁から、イニングの先頭となった3番打者にレフト前ヒットを浴びて満塁とされても、動揺することはない。貫いた力のあるストレートで後続を討ち取り、最後の打者はセンターフライに。中堅手・植田のグラブにウイニングボールが収まり、古屋敷が仁王立ちしたマウンドに選手たちが集まると、歓喜の輪が広がった。
西田真二監督が延長戦にもつれた激戦を振り返る。
「選手の思い、会社の思い……。本当ならば、第1代表でその思いを達成させたかったところはありますが、選手たちは投手陣を中心に最後まで粘り強く戦ってくれたと思います。選手の笑顔を見られて嬉しかった」
主将の宮川は、苦しみながらも東京最後の代表権を手にして「勝ち切ったことが何よりも大きい」と語る。そして、その視線を次なる大舞台に向けるのだ。
「東京ドームでも頑張ります」
4年連続14回目の出場となる都市対抗本大会。そこにも、粘り強く、逞しく、勝利に向かって戦い抜く選手たちの姿があるはずだ。
文 : 佐々木 亨
写真:政川 慎治