戦評・コラム
2024年セガサミー野球部/注目プレーヤーFILE①・田中法彦投手 磨きをかけた直球とフォークボールを軸に躍動!2年目右腕が投手陣を支える。
2024/05/14
試合展開を見つめながら、彼は自らの登板に備える。そして、終盤を迎えた大事な場面でマウンドに立つのだ。今シーズン、2年目を迎えてピッチングに磨きがかかった田中法彦が担う役割は明確だ。勝利のバトンをつなぐセットアッパーとして、無類の安定感を誇っている。
「緊張感があるところで投げられるのは楽しい」
その言葉の裏に、確固たる自信が透けて見える。自信の一つになっているのが、質が高まったストレートだ。昨シーズンまでのストレートはカットボール気味の軌道を描いた。言葉としては適していないかもしれないが、ナチュラルに変化するそのボールは「汚いストレート」だった。微妙に動くストレートは一つの持ち味ともなり得るのだが、今シーズンは「回転の良い、キレのあるボール」を求める中で、ストレートの質が変わった。
「今年は投球フォームなどの“形”を気にせず、自然体で投げられています。その結果、より右腕が走るようになりました」
さらに、昨シーズン同様に投げているフォークボールのストライク率が上がり、投球の幅が広がったことも好調の要因の一つになっているようだ。
フィジカル面の充実も感じる田中は、今シーズン初の公式戦となった東京スポニチ大会から躍動した。特筆すべきは初戦となった東海理化戦だろう。背番号34の右腕がマウンドに上がったのは、1点リードで迎えた8回裏だった。先頭打者をわずか4球でセカンドゴロに仕留めると、続く6番打者は3球三振に仕留める。空振りを奪った最後の一球は、144キロを計時。球速以上に伸びとキレを感じる「回転の良い」ストレートだった。さらに7番打者からも質の高いストレートで押し込んで空振り三振を奪うのだから、まさに圧巻のピッチングだ。結局、東京スポニチ大会では、いずれもセットアッパーとして3試合に登板して一度も点を失うことがなかった。
田中は、地元・三重県の県立校である菰野高からプロ野球の世界に飛び込んだ。かつてセガサミーの西田真二監督が現役選手として13年間在籍した広島東洋カープで過ごした日々を振り返れば、「結果が出なかったことが多くて、苦しさのほうが多かった」と田中は言う。プロ1年目は、自慢のストレートが120キロ台まで落ちた時期があった。2年目になると自身のピッチングを取り戻して、主に抑えとして活躍してウエスタン・リーグのセーブ王に。シーズン後半には一軍のマウンドも経験したが、翌年からは再び投球フォームを崩して二軍での日々を過ごす。怪我との戦いもありながら、わずか4年でプロ生活を終えた。様々な縁もあって社会人野球の世界で勝負することを決意した田中は、セガサミーでの昨年1年目もシーズン前半までは本来のピッチングができなかった。
「社会人野球の流れや各大会での調整などに対応しきれず、慣れるまでに時間がかかってしまいました。それでも、シーズン後半からはペースを掴みながら、心の余裕も生まれました。ピッチング自体も良くなり、その流れの中で今シーズンを迎えられたのはよかったと思います」
社会人野球を通して、田中は「一球に対する執着や重さが変わった」と言う。それだけに、チーム全体で勝利を喜び、噛み締める瞬間が何よりも嬉しいのだという。
「昨年の都市対抗出場を決めた時も嬉しかった。チームみんなで野球をやっている感じがありました。自分にとっての野球は、いつの時代も楽しかったと思えるのですが、今が一番、楽しいですね。セガサミーでプレーできていることに喜びを感じています。今年こそは自分自身もチームの戦力となり、東京ドームでしっかりと投げたい」
頼れるセットアッパーの言葉は、自信に満ち溢れている。