戦評・コラム
2025年セガサミー野球部/シーズン展望 二大大会予選未勝利からの下剋上を目指し「喝!克!勝!」
2025/03/07

捲土重来の1年が始まった。セガサミー野球部は、社会人野球最高峰の大会である都市対抗野球大会で2020年、21年に4強入りし、22年に8強入り。初めての頂を視界に捉え始めていたが、23年に初戦敗退を喫すると、24年は都市対抗予選、日本選手権予選と二大全国大会予選で1勝もできずに終わるという屈辱にまみれた。
雪辱を期す1年のスローガンは『喝!克!勝!~カツにこだわれ~』。指導陣や選手たちは、どんな思いでこの1年に臨もうとしているのか。2月の宮崎キャンプで『喝』『克』『勝』のテーマで迫った。

『喝』 名参謀の復帰

グラウンドに着いてまず聞こえるのが選手たちのハツラツとした声。さながら高校野球のような活気だ。
20年から指揮を執り就任6年目となる西田真二監督は「彼が戻ってきて雰囲気が変わりましたね」と話す。
その彼とは吉井憲治ヘッドコーチだ。現役時代は西濃運輸やシダックスで活躍し、その後チームを離れ社業に専念。そして今季から、低迷打破の期待を担い、4年ぶりに現場へ舞い戻った。
「社員の皆さんがこんなに応援してくれていることに驚きました」
吉井コーチは社業についていた3年間での実感をしみじみと振り返る。情熱を持って応援してくれているからこそ、昨年のチームに対しては厳しい声も届いた。
「社員の皆さんが期待することは、もちろん勝つことだと思います。昨年は例年にも増して激励の声を多く頂戴しました。僕が戻って社員の皆さんの想いを伝えられたらと思っています」
吉井コーチは「昭和チックかもしれませんが」と前置きした上で、選手たちの「声と表情」に特に着目し「それを管理するのが僕の役割」とまで言い切る。嫌われ役になる覚悟を持って喝を入れる存在に徹する。
重きを置くのは「声が出ているか?」「全力で走っているか?」「気が抜けていないか?」「怯んでいないか?」といった姿勢面が中心だ。
当然、日々の練習はより引き締まった空気となったが、選手たちの表情は暗くない。活気のある声に触発されるかのごとく、明るくハツラツとした表情で躍動する姿が目立つ。吉井コーチは「主将の高本(康平)や砂川(哲平)コーチ、陶久(亮太)コーチ、佐藤(俊和)助監督が僕をフォローしてくれています」と感謝しながら目尻を下げた。
『克』 猛練習の先にあるもの

変わったのは雰囲気だけではない。練習量も格段に増えた。
「下手くそなんだから練習しないといけないという簡単な認識です。」
吉井コーチは毅然と話す。
宮崎キャンプで投手陣は練習日に毎日ブルペン入りし、野手による全体練習前の早出練習も復活。主将を務める高本は「正直きついですけど、頑張った分が結果で返ってくると思って練習に励み、勝ちを目指したいなと思います」と、流した汗を結実させるべく決意を固めている。
そんな高本の主将就任は今季から。学生時代を含めても人生初の役回りだ。西田監督から「人望がある。もうひと皮むけて欲しい」と任命された。目指すチーム像は「メリハリのあるチーム」だ。
「やる時は全員で懸命にやる。休みは立場関係なく過ごす」
そんな理想を目指す中で「雰囲気が明るくなりました。若い選手も多いのですが、チームのことに関して積極的に意見を出してくれています」と手応えも徐々に感じてきている。
昨年を「盛り返す雰囲気がなく、負けたらそのまま負のオーラで負け続けてしまいました」と振り返るだけに、今年はチーム全員で前向きに戦い続けたい。
西田監督も「緊張は誰でもする。その緊張を楽しめるように、日々の練習から取り組んでいって欲しい」と話すように、選手一人ひとり、チーム全体で、プレッシャーに打ち克つために、乗り越えてきた日々の猛練習が必ず生きてくるはずだ。
『勝』 投打ともに競争激化
昨年遠かった勝利への道のり。西田監督は「やはり野球は投手なので」と話すように、まずは失点を少なく抑えてから攻撃に転じる試合展開を理想とする。
鍵となる投手陣の中でも、大卒2年目を迎えた尾﨑完太と岩本大地の左右の両輪に西田監督は期待する。
オープン戦でも好調で、尾﨑は粘りの投球でロッテを4回無失点、岩本は得意のスライダーが冴えるなどしてオリックスを6回1失点に抑えた。ともに相手は二軍選手が中心だったが、堂々とした投球で試合を作ってみせた。また、韓国プロ野球の斗山ベアーズ戦では、広島東洋カープを経て社会人3年目になる25歳の田中法彦が6回無失点の好投。社会人野球への適応力を高めてきている彼らがチームを牽引していくことができれば、地盤は強固になっていく。
さらに安定感抜群の大型右腕・肥沼竣、投げっぷりの良さが光る右腕・長谷川優也も加入し、刺激を与えている。



野手は18名が在籍しレギュラー争いは熾烈。西田監督は「繋いでいく意識」「バントの精度」「バッティングカウントでいかに失投を打てるか」をポイントに挙げる。その中で、斗山戦で本塁打を打った植田匡哉、主将の高本、入社4年目の福森秀太や黒川貴章ら多くの選手が好アピールを続けており、レギュラー争いは激化したまま宮崎キャンプを終えた。
新人も割って入るべく奮闘しており、内野手では確実性の高い打撃が売りの宮浦柚基、長打力と巧みさを兼ね備え西田監督が「打撃の内容が良い」と評価する加藤巧也、外野手では昨秋の東都大学リーグ13試合で13打点と勝負強い笠松拓真など、野手の層は厚みを増している。
創部20年の節目となる2025年。目標を高本に尋ねると「もちろん頂点。日本一です」と即答した。勝利を渇望した選手たちが昨年の悔しさをぶつけ、かつてチームを築いてきた先人たちも成し得なかった日本一の頂を目指す。

文・写真:高木 遊(株式会社スポーツオフィスタカギ)