ガバナンス
社外取締役メッセージ
取締役会の実効性向上に向けた取り組み
現在、取締役会にはモニタリングボードとマネジメントボードという2つの役割が求められていると考えています。モニタリングボードは執行側に対する監督や、コンプライアンスに代表される内部統制など、文字通り経営全般の監督を司る役割です。マネジメントボードとは、単なる監督ではなく、経営の高度化や企業価値向上に向けて、執行サイドに対して助言を行い、最終的な意思決定に向けて共に議論する役割です。
現在の当社はグローバル化や新領域への進出を進めているステージにいることから、より緻密な経営判断や戦略立案が欠かせません。私は長く上場会社の経営をしておりましたので、そうした知見を活かし、マネジメントボードとしての役割を意識して提言・助言を行っています。
当社では、意思決定の高度化と議論の充実を目的として、取締役会の下にグループ経営委員会を設置しています。取締役会へ上程する議案については、このグループ経営委員会で十分な時間をとり、徹底的に議論・検証しています。グループ経営委員会での議論や取締役会における意思決定においてマネジメントボードとしての実効性を更に高めるためには、社内外の取締役の情報格差を埋めることが必要です。社外取締役は独立した視点で経営や事業戦略への提言を行うことが求められていますが、一方で当社の事業を知らないままでは、適切な助言や課題提起が出来ません。この点については社外取締役に就任した2021年からこれまで執行側の議論内容を共有する取り組みが進んできており、高く評価しています。具体的には、グループ経営委員会で討議するにあたり、事前に各議題における執行サイドでの議論について議事録だけでなく録画データでも共有がされています。議事録だけでは漏れてしまう細かい情報を確認することで、各議題の前提情報や、討議すべき内容を詳細に把握することが可能となり、議論の高度化と効率的な意思決定に繋がっています。グループ経営委員会では社外取締役も積極的に発言することが推奨されていますが、録画データの共有以降、執行と監督間での議論がより活発になっていると感じています。
当社はオーナー企業ではありますが、この活発な議論をもとに、意思決定が非常に健全に行われています。一般的に言われるオーナーへの忖度とは無縁と断言できるでしょう。会長とCEOもそれぞれに信念があり、時に考えが割れることもありますが、そうした場合も適切に議論を行った上で意思決定がされています。当社では社外取締役も含めて、すべての取締役の意見を尊重する風土が醸成されており、私たち社外取締役も忖度なく自らの意見を述べ、議論を深めています。例えば、フェニックス・シーガイア・リゾートは会長ご自身の思い入れのある事業でしたが、適切な事業ポートフォリオを維持するため議論を重ね、2024年5月に株式譲渡を決定しています。
私たち社外取締役も含めた議論の深化や意思決定の高度化は進んでいる一方で、今後はグローバルガバナンスの強化が課題と考えています。新たな中期計画「WELCOME TO THE NEXT LEVEL !」では、海外でのゲーム市場をはじめとした領域での事業拡大やゲーミング領域といった新領域への進出を進めており、その手段としてM&A等も積極的に行っています。事業領域や展開地域の拡大や、グループの規模拡大が進むステージでは、M&Aで取得した企業のPMIやガバナンス強化だけでなく、当社グループ全体として適切なポートフォリオマネジメントに基づいた経営を行うことが不可欠です。私を含め社外取締役からは常に、個別の案件情報だけでなく、背景や戦略上の位置づけなど、より俯瞰的な視点に立った情報の共有や議論を行うよう進言しています。執行サイドもその要望に応え、適切な情報共有が進んでいることを実感しています。例えば、2023年8月に連結子会社化 したRovio社の買収時には、モバイル向けIPの獲得といったIP戦略上の位置づけ、Rovio社自体が有している競争優位性や市場性といった観点まで、執行サイドから事業ポートフォリオに基づいた説明がなされ、適切な意思決定ができました。今後は、このようなグローバルに拡大したポートフォリオのマネジメントを徹底していくことが、当社の企業価値向上に向け不可欠だと考えています。
中期計画における議論
前・中期計画「Beyond the Status Quo」では、最終年度である2024年3月期に欧州コンシューマ分野での構造改革を実施し損失計上が発生したものの、「スマスロ北斗の拳」等のヒットにより大幅に増収増益となった遊技機事業が寄与し、連結経常利益は当初目標450億円に対して597億円と、超過して達成となりました。これはセガサミーの強みである、補完関係にある多角的な事業ポートフォリオを適切に維持、マネジメントしてきた成果だと評価しています。
前・中期計画の成果や課題をベースとして策定された新・中期計画は、各事業の成長性とリスクマネジメントの両側面を考慮し、バランスの良いものになっていると感じています。持続的な成長に向けて適切にポートフォリオを維持していくためには、将来を見越した資金や人財の配分が重要です。たとえ、現在収益源になっている事業があったとしても、より将来の成長期待が見込める別の事業があれば、その事業は売却するという選択肢も生まれます。その点で、新領域への進出を進め、フェニックスリゾートを売却するという決断は適切だったと考えています。なお、譲渡先は企業価値最大化に向けたベストオーナーであり、フェニックスリゾートの更なる成長という点でも良い選択であったと考えます。
また、前中計で課題だった欧州コンシューマ分野の再編では、再発防止と事業基盤強化に向けた議論が十分に行われたことを評価しています。収益性が悪化した以上は、現在の事業構造を放置することはできません。取締役会では収益性向上に向けた方策や、執行部と取締役会での意思決定領域のすみ分けなど、再編に向けた基本方針と施策は密に議論できたと考えています。
新・中期計画策定段階においては、リスクと成長のバランス、特に資金や人財といった資源配分は社外取締役から積極的に質問や情報共有を要望し、議論を進めました。中でも今後の成長領域として見込んでいるゲーミング分野への進出は時間を割いて議論をしました。市場規模の拡大見込みといった将来性や、依存症やレピュテーションリスクへの対策といった観点まで社外取締役からも詳細を深堀したことで、包括的な議論を進めることが出来たと考えています。
成長の肝となる人的資本経営
今後、グローバル市場での成長を実現するためには、グローバル視点での人財の獲得・育成と最適な配置が不可欠です。その点で、人的資本経営を一層推進することを期待しています。中でも、海外におけるM&Aも含めた人財の獲得や買収後のマネジメントは必須です。
そのためには、現在の当社が抱える人財ポートフォリオと、事業計画達成に向けて目指す人財ポートフォリオのギャップを適切に把握し、不足している人財の育成・採用を着実に進めることが欠かせません。当社が属している業界は専門性が高く、適切な人財市場にアプローチする必要があります。現在の経営陣には業界に豊富なネットワークをお持ちの方も多くいますので、そのネットワークを活用し積極的なアプローチを取ってほしいと考えています。同時に、海外子会社も含めて人財の多様性を広げることも、今後の成長に欠かせない要素です。日本国内に限っても女性のエンジニアはまだ少ないですし、海外展開を進めるためには、現地人財の拡大と適切なマネジメントが必要になります。現在のセガサミーが抱える人財ポートフォリオと、目指す姿のギャップ解消に向けては、今後も取締役会で戦略の議論を密にしていきたいと考えています。
セガサミーへの期待と役割
私は2021年に当社の社外取締役に就任以降、現場の社員とも交流を重ねてきました。その活動を通じ、当社は技術的にも進んでおり、社員も意欲的に働いている企業だと感じています。製品やサービスはもちろん、バックオフィスにおいてもITを基軸とした事業運営が徹底され、そのなかでエンジニアをはじめとした社員の皆さんが生き生きと仕事に取り組んでいます。そうした組織風土をみても、今後も成長を続け、目指す姿を達成する力のある会社だと考えています。そのためには適切にリスクを取って挑戦していくことが欠かせません。社外取締役として、適切なリスクテイクを行えるよう、議論や課題提起を進めていきます。
※本記事は「統合レポート2024(2024年3月期)」から抜粋しています。